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札幌地方裁判所 平成11年(行ウ)4号 判決

原告

有限会社A

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

三津橋彬

渡辺達生

被告

札幌南税務署長 関原忠男

右指定代理人

伊良原恵吾

藤田武治

増田雅人

沖村幸夫

木村邦博

田中晃二

小森睦雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成九年六月二四日付けでした、原告の平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分を取り消す。

二  被告が平成九年六月二五日付けでした、原告の平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度の法人税の更正及び重加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、飲食店の経営を営む青色申告者である原告が、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたところ、被告が原告に対し、原告の本件事業年度に係る帳簿書類に保険金等収入の記載がなかったことは法人税法一二七条一項三号所定の取引の隠ぺいに該当するとして、本件事業年度以後の法人税の青色申告の承認を取り消す(以下「本件青色取消処分」という。)とともに、調査によって把握した所得金額に基づき、更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下「本件賦課決定処分」といい、被告のした各処分を併せて「本件各処分」という。)をしたので、原告が、被告のした本件各処分はいずれも違法であるとして、その取消しを求める事案である。

なお、原告の本件事業年度の法人税につき、原告のした本件確定申告、被告のした本件更正処分及び本件賦課決定処分、原告のした不服申立て並びにこれに対する決定・裁決の経緯は、別表記載のとおりである。

二  前提となる事実(なお、証拠で認定した事実は末尾に証拠を掲記する。)

1  原告は、札幌市中央区南五条西(平成七年四月までは中央区南五条西)において、飲食業(居酒屋)を営む有限会社(法人税法二条一〇号に該当する同族会社)である。

2  原告は、平成四年三月一日、Bとの間で、原告が保険契約者となり、原告の前代表者である乙を被保険者、原告を保険金受取人とする死亡保険金一億円、入院給付金一日につき一万五〇〇〇円の定期保険特約付終身保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し、保険料を支払っていたところ、被保険者である乙は、本件事業年度中に入院し、平成六年一二月一四日、死亡した。

3  原告は、B保険相互会社から、入院給付金、死亡保険金及び配当金(以下「本件保険金等収入」という。)として、合計一億〇一九三万五〇六一円を次のとおり振込みの方法により受け取った。

(一) 平成六年一〇月二五日、C銀行(以下「C」という。)薄野支店の「A乙」名義の普通預金口座(以下「乙口座」という。)に、入院給付金七六万五〇〇〇円から同年一〇月分の未払保険料七万四四四九円を差し引いた六九万〇五五一円が振込入金された(乙七、八)。

(二) 平成七年三月一三日、D銀行(以下「D」という。)の原告名義の普通預金口座(以下「D口座」という。)に、入院給付金一〇三万五〇〇〇円が振込入金された(甲七、乙九)。

(三) 平成七年三月一四日、D口座に、死亡保険金一億円、配当金一三万五〇六一円の合計一億〇〇一三万五〇六一円から、Bの立替保険料と貸付金の合計一三〇万八三四〇円を控除した九八八二万六七二一円が振込入金された(甲七、乙六、九)。

4  原告は、被告に対し、法定申告期限内である平成七年五月三一日、別表1「〈1〉確定申告」欄記載のとおり記載した本件事業年度の法人税の青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出した。しかし、原告は、本件確定申告書に本件保険金等収入を記載しなかった。

5  被告は、本件確定申告書に記載された所得金額等を確認するため調査を行った上、原告に対し、平成九年六月二四日付けで本件事業年度に係る帳簿書類に保険金等収入の記載がなかったことは法人税法一二七条一項三号所定の取引の隠ぺいに該当するとして本件青色取消処分をし、同月二五日付けで、調査によって把握した所得金額に基づき本件更正処分をするとともに、更正税額と確定申告税額の差額につき国税通則法(以下「通則法」という。)六八条一項によって重加算税を課すべきであるとして本件賦課決定処分をした。

6  原告は、平成九年八月二五日、本件各処分を不服として被告に対し、通則法七五条一項に基づき、異議を申し立てたが、被告は、同年一一月二〇日付けをもって、これを棄却する旨決定した。原告は、同決定を不服として、同年一二月二四日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年一二月二一日付けをもって、これを棄却する旨の裁決をした。

三  争点

1  原告が本件保険金等収入を会計帳簿に計上せず、かつ申告しなかったことが、法人税法一二七条一項三号所定の「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載」したこと及び通則法六八条一項の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するか否か。

2  被告には、納税者である原告から正しい決算書に合致させるための申告内容の訂正につき、職権発動を求められた場合には、訂正された財務諸表の差し替えを認め、職権により財務諸表に基づく更正処分をすべき義務があるか否か。

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(一) 被告

(1) 原告は、公表預金口座(C薄野支店三口、E銀行薄野支店一口)を保有しているにもかかわらず、保険金等支払事由が発生した平成六年一二月一四日以後の日である平成七年三月一日、原告とそれまで取引のなかったDにD口座を新規に開設した上、同口座を原告の公表帳簿に記載せず、いわゆる簿外口座として利用して本件保険金等収入のうち一億〇〇一三万五〇六一円を振り込ませるとともに、本件保険金等収入を会計帳簿にも計上しなかったのであるから、この事実は、法人税法一二七条一項三号所定の「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載」したことに該当する。

よって、本件青色取消処分は適法である。

(2) 重加算税は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に賦課することと規定されている(通則法六八条一項)。原告は、公表預金口座四口を保有しているにもかかわらず、本件保険金等収入の受領に関しては、本件保険金等収入の全部をいわゆる簿外口座であるD口座及び乙口座に振り込ませた上、本件保険金等収入を会計帳簿にも計上せず、本件保険金等収入を除外したところに基づき、法定申告期限までに確定申告書を提出し、もって、納付すべき正当な法人税額を過少ならしめてその不足税額を免れていたのであるから、原告の右行為は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

よって、本件賦課決定処分は適法である。

(3) 原告は、原告の本件事業年度の確定申告手続を依頼した公認会計士丙(以下「丙会計士」という。)が、本件保険金等収入の受取人は原告ではなく被保険者である乙の妻甲(現原告代表者)であると誤認したと主張するが、税務の専門家たる丙会計士としては、生命保険関係書類の記載に基づき受取人が誰であるかを判断するのが通常であるから、甲を受取人と誤認したというのは、それ自体不自然である。しかも、〈1〉関係書類には保険契約者及び保険金受取人が原告であると明記されていたこと、〈2〉本件保険金等収入が原告名義の口座に入金されたこと、〈3〉甲を受取人と誤認したのであれば、甲個人の所得税の確定申告をすべきであるのに、これをしていないこと等の事情を勘案すると、原告の右主張は、本件各処分を免れんがためにする弁解にすぎない。

(4) 原告は、本件の税務申告を税の専門家である丙会計士(税理士法三条一項四号により税理士としての職務を行っている)に一任しているが、それによって国に対して誠実に誤りなきよう税金を申告納付すべき義務を免れるわけではなく、税理士(本件では税理士の職務を行う公認会計士、以下単に「税理士」ということがある。)の過誤等により生じた納税義務違反について当然税法上の責任を問われるべき地位にある。そして、納税者は、誠実に税理士を選任し、その後も税理士の作成した申告書を点検・確認した上、自ら署名押印する等して適法な申告が行われるように税理士を監視・監督して、自己の申告義務に遺漏のないよう注意を払うべき義務を負っており、これを怠って税理士により不正な申告がなされ、客観的に納税義務違反の状態を生じさせた場合には、特段の事情が認められない限り、納税者自身の不正な申告として、重加算税の賦課決定という行政上の措置を受けたとしてもやむを得ない。そして、原告代表者の甲が丙会計士の専門的知識を全面的に信用して本件の税務申告を一任したという原告主張の事実は、右特段の事情にはなり得ない。

(三) 原告

(1)〈1〉 甲は、Bに対し、原告名義で本件保険金等収入の支払請求手続をした上、本件保険金等収入を債権者から差し押えられないようにするとの弁護士丁(以下「丁弁護士」という。)の助言に基づいて開設したD口座に振り込まれた本件保険金等収入を他の口座に移し替えるなどの積極的な隠ぺい行為をしていない。

〈2〉 本件確定申告において、本件保険金等収入が益金に計上されなかったのは、甲から、本件保険金等収入の中から乙に対する死亡退職金を支払い、この死亡退職金請求権を乙の妻である甲が相続することになる旨の説明を受けた丙会計士が、本件保険金等収入の受取人が甲個人であると即断したからである。

〈3〉 このように、甲も丙会計士も、単独で又は共謀して、故意に原告の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は隠そうとしたと認めるに足りるような違法な態度を取っていない。まして、本件保険金等収入が原告の口座に振り込まれた場合、Bから被告に通知されることは、公認会計士である丙会計士としては職務上熟知しており、もしこれを隠ぺいしたとすれば、後日の税務調査において探知されることは明らかであるから、丙会計士が右のような隠ぺい行為をすることは考えられない。

(2) また、甲は、D口座を含めて会計関係書類のすべてを丙会計士に渡し、適切な申告がなされていたものであると信頼していたのであるから、本件保険金等収入が本件事業年度の決算に計上されていないことについての認識がない。しかも、納税者には、税理士を誠実に選任し、税理士の申告業務に誠実に協力する義務はあるとしても、税金の専門家である税理士を監視・監督して、自己の申告義務に遺漏がないように注意する義務は認められないというべきである。したがって、税理士が不正な申告をし、客観的に納税義務違反が生じた場合にも納税者自身の不正な申告とは認められない「特段の事情」とは、納税者が、税理士を誠実に選任し、税理士の申告業務に誠実に協力したことをいうと解すべきである。本件では、甲は、丙会計士を誠実に選任し、丙会計士に会計に係る書類のすべてを渡し、丙会計士の申告業務に誠実に協力しているのであるから、丙会計士が不正な申告をし、客観的には納税義務違反が生じたとしても、納税者自身の不正な申告とは認められない「特段の事情」があるというべきである。

(3) したがって、本件青色取消処分は、承認を取り消すべき事由がないのにされたものであるから、違法であり、また、原告が本件保険金等収入を所得金額の計算上益金の額に計上しなかったのは、全くの誤解に基づくものであって、原告は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ものではないから、本件賦課決定処分は違法である。

2  争点2について

(一) 被告

(1) 原告の本件事業年度の所得金額は、別表記載のとおり、本件更正処分における所得金額と同額の五八六六万八三七三円である。したがって、本件更正処分は適法である。

(2) 原告は、受取人の誤認により本件保険金等収入全額を乙に対する役員退職給与として損金経理をしなかったのであるから、原告は公正妥当な会計処理基準に従った決算書と差し替えて更正処分をすべきであると主張するが、法人税法七四条一項によれば、法人は確定した決算に基づき当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額及び右所得の金額に対する法人税額を記載した申告書を提出しなければならないとされている。そして、ここにいう「確定した決算」とは株主総会、社員総会等において承認を受けた決算を意味するものと解されている。そうすると、法人税法上、確定申告後にこの確定した決算の会計処理の方法の変更及び申告の基礎とされた決算の変更は認められていないものとするのが相当であるところ、原告が平成七年五月三一日、被告に提出した確定した決算に基づく本件事業年度の確定申告書について、原告が確定申告後に作成した決算書との差し替えを認めたのでは、右確定した決算の変更を認めるに等しく、許されないことは明らかである。

(二) 原告

納税者は、申告書の内容を正しい決算書に合致させるため、所轄税務署長に対し、通則法二四条による職権による更正を求めることができると解すべきであり、所轄税務署長は、納税者から正しい決算書に合致させるための申告内容の訂正についての職権発動を求められた場合には、訂正された財務諸表の差し替えを認め、職権により財務諸表に基づく更正処分をすべきである。

原告は、本件事業年度において、本件保険金等収入に関する前述(前記(二)(1)〈2〉)のような誤解に基づき、本件保険金等収入を益金として計上するとともに、乙に対する役員退職給与を損金として計上することを脱漏したため、本件事業年度の決算内容が、原告の財政状態、経営成績及び当該財務諸表を著しく歪め、企業会計原則上著しく適正を欠いたことから、平成九年六月、訂正した財務諸表を被告に提出して、先に提出した財務諸表との差し替えを求めた。しかるに、被告は、これを認めずに本件更正処分をした。

したがって、本件更正処分は違法である。

第三当裁判所の判断

一  事実関係について

前記認定の事実に加え、証拠(甲一~五、六の1、2、七~九、一〇の1~4、乙一~一三、一四の1、2、一五の1、2、一六~二〇、二一の1、2、二二、二四~二九、三一、三二、三五、証人丙会計士、原告代表者(甲))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、必要に応じて本文中にも書証を掲記する。)。

1  原告は、昭和六三年四月三〇日に設立された飲食店(居酒屋)等の経営を目的とする有限会社であり、平成六年一二月一四日に乙が死亡するまで、出資金額二〇〇〇万円のうち、乙が一八〇〇万円、甲が一〇〇万円、乙の母である戊が一〇〇万円を出資する法人税法二条一〇号に該当する同族会社であり(乙一一、三一)、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度(以下「平成五年三月期」という。)においては、役員報酬手当として乙に四二〇万円、甲に三〇〇万円、戊に九六万円を支給していた(乙二五)。甲は、設立当時から原告の取締役を務め、平成六年ころから、原告が営む飲食店の配膳やレジ等の仕事を担当し、日々の売上等をコンピューターに入力して売上元帳を作成し、飲食店の売上を管理しており、諸経費を記載した帳簿、売上及び売掛金等の現金の出入を記載した日計表も作成していた(乙一一、一二、一四の1、2、一五の1、2)。

2  原告は、平成五年三月期の法人税に係る確定申告書添付の預貯金等の内訳書(乙二六)において、C薄野支店の乙口座を含め、次の六口の口座を公表口座として申告していた(以下預貯金等の内訳書に記載のある口座を「公表口座」、記載のない口座を「簿外口座」ということがある。)。

(一) 乙口座

(二) C薄野支店当座預金口座

(三) 同支店普通預金口座

(四) E薄野支店普通預金口座

(五) F銀行(以下「F」という。)薄野支店普通預金口座

(六) C薄野支店積立預金口座

3  乙は、平成六年八月ころ入院した(乙一六)。原告は、Bとの間で締結した本件保険契約に基づき、Bから、平成六年一〇月二五日、入院日数五一日に相当する保険金七六万五〇〇〇円から未払保険料七万四四四九円を控除した六九万〇五五一円を乙口座への振込入金の方法で支払を受けた(乙七、八)。

4  乙は、平成六年一二月一四日、死亡した。甲は、平成七年二月八日、原告の代表取締役に就任した(乙一一)。甲は、原告の債務整理を受任していた丁弁護士の助言により、本件保険契約に基づきBから支払われることになる本件保険金等収入が原告の債権者から差し押えられないようにするため、平成七年三月一日、D札幌支店において原告名義のD口座を開設し、Bに対し、本件保険契約に基づく死亡保険金、入院給付金及び配当金等の振込みを依頼した。そして、原告は、Bから、同月一三日、入院給付金一〇三万五〇〇〇円、同月一四日、死亡保険金一億円、配当金一三万五〇六一円の合計一億〇〇一三万五〇六一円から、Bの立替保険料と貸付金等の合計一三〇万八三四〇円を控除した九八八二万六七二一円を、それぞれD口座への振込入金の方法で支払を受けた(甲七、乙六、九)。

なお、甲は、本件保険契約締結の際、乙から、保険契約者及び保険金受取人が原告であるとの説明を受けており、保険証券でもこれを確認していたことから、Bから支払を受けた本件保険金等収入は、原告が受取人であり、これについては、原告の収入となって課税の対象になると認識していた。また、本件保険契約に係る保険料は、乙口座から口座引落しの方法により支払われてきた(乙七、八)。

5  甲は、平成七年三月二〇日、Bから同月一三日と一四日に振り込まれた金員の合計額と同額の九九八六万一七二一円をD口座から払い戻し、これを原告の負債整理の資金とするためにF札幌西支店の丁弁護士の普通預金口座に振り込んだ(乙一三)。丁弁護士は、原告から送金を受けた右金員に、同年四月二六日ころ、原告が賃借していた店舗を明け渡したことによって返還を受けた保証金一一二万九五八八円を加えた一億〇〇九九万一三〇九をもって、原告の債務整理に当たり(乙一七~一九)、その残金につき同年五月二六日に一〇〇万円、同月二九日に六〇〇〇万円、同年一二月二〇日に二五七万五五三九円をC薄野支店の原告名義の普通預金口座(以下「C薄野支店口座」という。)に振り込んで返還した(甲八、乙一八、一九)。なお、原告は、本件保険金等収入の振込のために使用した後は、D口座を使用していない(甲七)。

6  甲は、平成七年五月二九日に丁弁護士から送金を受けた直後に、C薄野支店口座から数度にわたり預金の払戻しを受け、これを原告名義の定期預金口座に入金したり、原告が事業資金のために借り入れた借入金の返済に充てた。原告は、その後もC薄野支店口座を利用して入出金を繰り返した。そして、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの原告の事業年度の末日である平成八年三月三一日には、C薄野支店口座の残高は、二三万六三〇九円となっていた(甲八)。

なお、丁弁護士から送金を受けた直後におけるC薄野支店口座からの主な払戻金額とその金員の使途は、次のとおりである。

(一) 平成七年五月三〇日、四〇〇〇万円を払い戻し、これを同支店の原告名義の定期預金口座に入金した(甲八、一〇の1)。

(二) 同月三一日、三五〇万円を払い戻し、原告の借入金の返済に充てた(甲八、乙二〇)。

(三) 同日、一〇〇〇万円を払い戻し、翌六月一日付けで、これをC札幌支店の原告名義の定期預金口座に入金した(甲八、九)。

(四) 同年六月七日、五五〇万〇七二一円を払い戻し、原告の借入金の返済に充てた(甲八、乙二一の1、2)。

なお、原告は、平成八年四月一日から平成九年三月三一日までの原告の事業年度(以下「平成九年三月期」という。)の法人税に係る確定申告に際しても、預貯金等内訳書に右定期預金口座を記載していない(乙二九)。

7  甲は、原告の本件事業年度の前年度である平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度(以下「平成六年三月期」という。)と本件事業年度の法人税に係る確定申告を丙会計士に委任した。その際、甲は、丙会計士に対し、一億円の保険金が入るからどうしたらよいかと相談したが、丙会計士は、夫である乙が死亡して保険金が入るということであれば保険金受取人は甲であると軽信し、保険証券も支払明細書も確認せずに、甲に対し、相続税の配偶者控除があるから申告の必要がないと話した。

8  丙会計士は、本件事業年度の決算報告書(甲六の2、乙二八、以下「本件決算報告書」という。)及び本件確定申告書を作成した。しかし、本件決算報告書中の損益計算書には、本件保険金等収入が計上されておらず、本件確定申告書(乙一)は本件決算報告書に基づいて作成されたため、本件保険金等収入が益金として計上されていないものであった。丙会計士は、確定申告に先立ち、本件決算報告書及び本件確定申告書を甲に見せ、その内容を説明し、この説明の事前又は事後に原告の捺印を受けた。そして、丙会計士は、原告の代理人として、平成七年五月三一日、本件確定申告書を平成六年三月期の法人税の青色の確定申告書とともに被告に提出した(乙一、乙二二)。

9  本件確定申告書、平成六年三月期の法人税に係る確定申告書及びこれらの添付書類には、次のとおり、原告の預金口座や借入金の記載漏れが存在する。

(一) 平成六年三月期の法人税に係る確定申告書添付の預貯金等の内訳書(乙二七)には、平成五年三月期の同内訳書(乙二六)に記載されていた乙口座が記載されていない。

(二) 本件確定申告書添付の預貯金等の内訳書(乙一〇)には、乙口座だけでなく本件事業年度に新たに開設されたD口座が記載されていない。

(三) 本件決算報告書中の貸借対照表には、D口座の九二七九円(甲七)、乙口座の七三万一五〇四円(乙三五)の預金残高が計上されていない(甲六の2、乙二八)。

(四) 本件決算報告書では、前記6(二)及び(四)記載の甲が返済した原告の借入金についての会計処理がされていない(甲六の2、乙二八)。

10  被告は、本件確定申告書に記載された所得金額等を確認するため、平成八年九月ころから、原告の税務調査をした。その過程において、原告が被告の係官に提出した前記記載の売上元帳及び日計表には、本件保険金等収入は記載されておらず、また、甲及び税務調査に立ち会った丙会計士は、札幌南税務署からの再三の求めにもかかわらず、本件保険金等収入に係る関係書類を初め、事業に関する預金通帳、領収証及び請求書等の原始記録を提示しなかった(乙一四の1、2、一五の1、2、一六、二四)。

11  被告は、平成九年六月二四日付けで、原告が本件保険金等収入を帳簿書類に記載しなかったことは法人税法一二七条一項三号所定の取引の隠ぺいに該当するとして本件青色取消処分をし(甲一)、同月二五日付けで、調査によって把握した所得金額と確定申告に基づき本件更正処分をするとともに、更正税額と確定申告税額の差額につき通則法六八条一項によって重加算税を課すべきであるとして本件賦課決定処分をした(甲二)。これに対し、丙会計士は、原告の代理人として、平成九年八月二五日、被告に対し、本件各処分を不服として通則法七五条一項に基づき、異議を申し立てた(甲三、乙二)が、被告は、同年一一月二〇日付けをもって、これを棄却する旨決定した(甲四、乙三)。原告は、同決定を不服として、同年一二月二四日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが(乙四)、同所長は、平成一〇年一二月二一日付けをもって、これを棄却する旨の裁決をした(甲五、乙五)。

丙会計士は、異議申立てにおいて、本件更正処分における所得金額は、本件決算報告書(甲六の2、乙二八)に基づき、本件保険金等収入が漏れているとして計算されたものであるが、これは、本件保険金等収入の受取人を乙の妻である甲と誤認したために間違って作成され、そのまま提出されたものであるから、平成九年六月に改めて提出した正しい本件事業年度の決算報告書(甲六の1)に基づけば、本件事業年度においては所得が発生していないから、本件更正処分には理由がないこと、本件保険金等収入の受取口座を新たに開設したのは、仕入先等の取引業者に知られたくなかったためで、所得を隠ぺいする意図はなかったから、本件青色取消処分及び本件賦課決定処分には理由がない、と主張し、審査請求においても、同様の主張をした。

二  争点1についての判断

1  本件青色取消処分について

(一) 前記のとおり、甲は、本件保険契約締結の際、乙から、保険契約者及び保険金受取人が原告であるとの説明を受けており、保険証券でもこれを確認していたことから、Bから支払を受けた本件保険金等収入は、原告が受取人であり、これについては、原告の収入となって課税の対象になると認識していたこと、甲は、本件保険契約に係る保険料が引き落とされ、かつ、平成六年一〇月二五日にBから入院給付金六九万〇五五一円が振り込まれていた乙口座を平成五年三月期までは公表口座として預貯金等内訳書に記載していたにもかかわらず、本件事業年度の預貯金等内訳書に記載せず、簿外口座とし、本件事業年度に新たに開設し、平成七年三月一三日に入院給付金一〇三万五〇〇〇円が、同月一四日に九八八二万六七二一円の死亡保険金等がBから振り込まれたD口座を本件確定申告書添付の預貯金等の内訳書に記載せず、簿外口座としたこと、甲は、本件確定申告書が被告に提出された平成七年五月三一日に先立ち、丁弁護士からC薄野支店口座に振り込まれた原告の債務整理の資金とされた本件保険金等収入の残金の一部である六一〇〇万円のうち、四〇〇〇万円を同月三〇日に、一〇〇〇万円を同月三一日に払い戻し、それぞれ原告名義の定期預金口座に入金したことが認められるところ、原告代表者である甲の右一連の行為は、法人税法一二七条一項三号所定の「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺい……して記載」したことになるものというべきであり、しかも、右認定事実を総合すれば、甲は、右隠ぺいの事実についても認識していたものというべきである。

(二) ところで、原告は、甲も丙会計士も単独で又は共謀して故意に原告の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は隠そうとしたと認めるに足りるような違法な態度は取っていないし、甲には本件保険金等収入が本件決算報告書に計上されていないことについての認識がなかったと主張するが、原告の右主張は、右認定の事実に照らし採用することができない。

したがって、被告のした本件青色取消処分は適法というべきである。

2  本件賦課決定処分について

(一) 通則法六八条一項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することを規定している。この重加算税の制度は、納税者が過少申告するについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであり、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい又は仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告をすることの認識を有していることまでを必要とするものではないと解すべきである(最高裁昭和三三年四月三〇日大法廷判決・民集一二巻六号九三八頁、昭和四五年九月一一日第二小法廷判決・刑集二四巻一〇号一三三三頁、昭和六二年五月八日第二小法廷判決・訟務月報三四巻一号一四九頁、平成七年四月二八日第二小法廷判決・民集四九巻四号一一九三頁参照)。

(二) これを本件についてみると、前記認定の原告代表者である甲の一連の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる本件保険金等収入を除外する隠ぺい行為に該当するものであるとともに、甲は、右隠ぺいの事実についても認識していたものというべきである。そして、前記認定のとおり、本件確定申告書添付の本件決算報告書の損益計算書には、本件保険金等収入が計上されておらず、本件確定申告書は本件決算報告書に基づき作成されているのであるから、甲の右隠ぺい行為を原因として過少申告の結果が発生したものというべきである。

(三) ところで、原告は、甲は、D口座等に振り込まれた本件保険金等収入を他の口座に移し替えるなどの積極的な隠ぺい行為を行っていないし、本件確定申告において、本件保険金等収入が益金に計上されなかったのは、甲から、本件保険金等収入の中から乙に対する死亡退職金を支払い、この死亡退職金請求権を乙の妻である甲が相続することになる旨の説明を受けた丙会計士が、本件保険金等収入の受取人が甲個人であると即断したからであるから、甲も丙会計士も、単独で又は共謀して、故意に原告の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は隠そうとしたと認めるに足りるような違法な態度は取っていない、と主張する。

しかし、前記認定のとおり、甲は、本件保険契約締結の際、乙から、保険契約者及び保険金受取人が原告であるとの説明を受け、保険証券でもこれを確認し、本件保険金等収入の受取人が原告であり、課税の対象になると認識していたこと、甲は、本件確定申告書が被告に提出された平成七年五月三一日に先立ち、本件保険金等収入の残金の一部のうち、四〇〇〇万円を同月三〇日に、一〇〇〇万円を同月三一日にC薄野支店口座から払い戻し、それぞれ原告名義の定期預金口座に入金し、これらの口座を平成九年三月期の確定申告に際し預貯金等の内訳書に記載せず簿外口座としたこと、税務調査の過程において、原告が被告の係官に提出した売上元帳及び日計表にも本件保険金等収入が記載されておらず、甲及び丙会計士は、札幌南税務署からの再三の求めにもかかわらず、本件保険金等

収入に係る関係書類を初め、事業に関する預金通帳、領収証及び請求書等の原始記録を提示しなかったことに照らせば、甲は、本件保険金等収入を隠ぺいすることを認識していただけでなく、本件保険金等収入を他の口座に移し替えるなどの積極的な隠ぺい行為すら行っていたと認めるのが相当である。そして、丙会計士が本件確定申告当時、甲が本件保険金等収入を隠ぺいするとの認識を有していることを知らなかったとしても、これによって、重加算税を賦課するために必要な要件を欠くことにもならない。したがって、原告の右主張は採用できない。

(四)(1) また、原告は、甲は、D口座を含めて会計関係書類のすべてを丙会計士に渡し、適切な申告がなされていたものであると信頼していたのであるから、本件保険金等収入が本件事業年度の決算に計上されていないことについての認識がなく、しかも、本件では、甲は、丙会計士を誠実に選任し、丙会計士の申告業務に誠実に協力しているのであるから、丙会計士が不正な申告をし、客観的に納税義務違反が生じたとしても、納税者自身の不正な申告とは認められない「特段の事情」がある、と主張する。

(2) 納税者が税理士(本件では税理士の資格を有する丙会計士)に納税申告を委任した場合において、税理士の過誤等により課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部が隠ぺい又は仮装され、その隠ぺい又は仮装されたところに基づき納税申告書が提出された場合であっても、納税者自らが税務申告手続をするか、税理士に委任してこれをするかは納税者の責任と判断に基づいて決せられる事柄にすぎず、納税者が税理士に委任して納税申告した場合であったとしても、納税者自身も国に対して過誤のない納税申告をすべき義務を免れないものといわなければならないから、特段の事情がない限り、税理士が行った右隠ぺい又は仮装は、納税者自身のそれと同視すべきである。

(3) これを本件についてみると、前記のとおり、甲は、本件保険金等収入の受取人が原告であり、これについては、原告の収入となって課税の対象になると認識していたこと、甲は、丙会計士に対し、本件事業年度の確定申告を委任した際、一億円の保険金が入るからどうしたらよいかと相談したが、丙会計士は、夫である乙が死亡して保険金が入るということであれば保険金受取人は甲であると軽信し、保険証券も支払明細書も確認せずに、甲に対し、相続税の配偶者控除があるから申告の必要がないと話したこと、丙会計士は、確定申告に先立ち、本件決算報告書及び本件確定申告書を甲に見せ、その内容を説明したことが認められ、これらの事実関係によれば、甲は、本件保険金等収入が原告の収入として課税対象となることを認識しながら、丙会計士に対し、保険金受取人が原告であることを保険証券又は支払明細書等の関係書類を提示するなどして説明せず、しかも、丙会計士から本件保険金等収入の計上されていない本件決算報告書及びこれに基づく本件確定申告書の内容を説明されたのに、本件保険金等収入が計上されていないことを指摘しなかったものと推認することができる。そうだとすれば、甲には、本件保険金等収入が本件事業年度の決算に計上されていないことについての認識がなかったということはできず、また、丙会計士が不正な申告をし、客観的に納税義務違反が生じたとしても、納税者自身の不正な申告とは認められない「特段の事情」があるということもできない。

(4) ところで、甲は、原告代表者尋問において、〈1〉丙会計士に平成六年三月期と本件事業年度に係る法人税の確定申告を委任し、その際にすべての帳簿書類とともにD口座を含むすべての預金口座を渡し、本件保険金等収入に係る本件保険契約は原告が締結したものである旨説明したが、D口座は原告名義で開設した口座であり、預貯金等の内訳書に記載されると思っていたから、同口座が国税当局に公表している口座ではないとの認識はなかった、〈2〉丙会計士は、甲に対し、個人の口座に移したほうがいいのか、会社の口座のままにしておいたほうがいいのか考えてみると言った、〈3〉本件確定申告書(乙一)中の原告代表者の署名は甲がしたものではなく、丙会計士が記載したものであり、本件確定申告についての説明もほとんど受けていないし、本件決算報告書を確定申告の前に見たこともないなどと供述する。

(5) しかし、前記のとおり、原告は、異議申立てにおいて、「本件更正処分における所得金額は、本件決算報告書(甲六の1、乙二八)に基づき、本件保険金等収入が漏れているとして計算されたものであるが、これは、本件保険金等収入の受取人を乙の妻である甲と誤認したために間違って作成され、そのまま提出されたものである。」と主張し、審査請求においても、同様の主張をしていることが認められ、しかも、原告は、本件訴訟の訴状においても、右と同様の主張をしていること、公認会計士である丙会計士は、保険金等収入が保険会社から所轄税務署に通知されることを職務上熟知しているはずであるから、甲から本件保険金等収入の受取人が原告であるとの説明を受けていたとすれば、これを本件決算報告書に記載しないということは考えられないこと、前記のとおり、甲が本件確定申告書が被告に提出された平成七年五月三一日に先立ち、C薄野支店口座に丁弁護士から振り込まれた本件保険金等収入の残金の一部のうち、四〇〇〇万円を同月三〇日に、一〇〇〇万円を同月三一日に払い戻し、それぞれ原告名義の定期預金口座に入金し、これらの口座を平成九年三月期の確定申告に際し預貯金等の内訳書に記載せず簿外口座としていること、甲は、原告代表者尋問において、丙会計士から本件確定申告後、本件決算報告書及び預貯金等の内訳書を含む本件確定申告書の控えを受け取っていると供述していること等の事実関係に照らせば、甲が丙会計士に対し、本件確定申告を委任した際に、原告が本件保険金等収入の受取人であることを説明したことを前提とする甲の供述及び本件確定申告についての説明もほとんど受けていないとの甲の供述は、到底信用できるものではない。

3  以上によれば、本件においては重加算税の賦課要件を充足するものというべきであり、後記のとおり、本件賦課決定処分は適法である。

三  争点2についての判断

1  原告は、納税者は、申告書の内容を正しい決算書に合致させるため、所轄税務署長に対し、通則法二四条による職権による更正を求めることができると解すべきであり、所轄税務署長は、納税者から正しい決算書に合致させるための申告内容の訂正についての職権発動を求められた場合には、訂正された財務諸表の差し替えを認め、職権により財務諸表に基づく更正処分をすべきである、と主張する。

しかし、通則法二四条の更正は、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査をしたところと異なる場合にされる行政処分であって、確定した決算に基づき行われた会計処理の方法を確定申告後に変更することによって、事後的に納税申告書及びその前提となる決算書等の記載を是正するために行う行政処分ではない。したがって、所轄税務署長は、納税者から正しい決算書に合致させるための申告内容の訂正についての職権発動を求められたとしても、訂正された財務諸表の差し替えを認め、職権により財務諸表に基づく更正処分をすることはできない。しかも、法人は、各事業年度終了の日の翌日から二か月以内に税務署長に対し、確定した決算に基づき当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額及び右所得の金額に対する法人税額を記載した申告書を提出しなければならないとされており(法人税法七四条一項)、確定した決算における会計処理の方法を確定申告後に変更することを許容する規定が存在しない以上、確定申告後に確定申告の基礎とされた決算における会計処理の方法を変更することは原則として許されないものというべきである。

したがって、原告の右主張は失当である。

2  右のとおり、財務諸表の差し替えに係る原告の主張が認められず、かつ、本件保険金等収入以外の本件更正処分における別表記載の所得金額については当事者間に争いがない。したがって、原告の本件事業年度の所得金額は、別表記載のとおり、本件更正処分における所得金額と同額の五八六六万八三七三円となるから、本件更正処分は適法であり、また、被告が更正税額と確定申告税額の差額につき通則法六八条一項によって重加算税を課すべきであるとしてした本件賦課決定処分も適法である。

四  結語

以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であるから、原告の請求はいずれも棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 橋本昇二 裁判官 小濱浩庸 裁判官 島田正人)

別表

1 課税の経緯

〈省略〉

2 被告主張の所得金額

〈省略〉

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